デュルケームの代表作の一つに「自殺論」を挙げることができる。彼は、19世紀後半にヨーロッパの自殺率が増えた原因に、近代社会の進展のなかで集団や社会の規範が緩み、人々が多くの自由を獲得しつつも、それが人々の幸福とは必ずしも結びつかず、かえって不安定な状況に人々を陥れたこと。また個人と集団との結びつきが弱まり個人主義が拡大したことなどを挙げている。したがって規則や規制が緩むことは、好ましいことではないという。
このような自殺をめぐる彼の分析と社会の見方は、色濃く道徳教育論にも受け継がれているように思う。彼にとっては、まず健全な社会こそが重要なのだ。そのことは次のような彼の指摘から見てとることができる。
「教育がわれわれのうちに実現すべき人間は、自然が造った人間ではなく、まさに社会が欲するところの人間であり、そしてまた社会が欲する人間とは、社会の内的調和を保持するに必要とされる人間なのである。」
「教育は、・・・略・・・社会が固有の存在条件を不断に更新するための手段」であり、「教育とは、若い世代を組織的に社会化することなのである。」
そして子どもたちの社会化・道徳的発達の視点から、デュルケームは学校教育の役割がもっとも重要であるとして規律の尊重、集団・社会への愛着、知的・合理的精神を説いた。(ちなみに前回の、家庭教育に教育の基本を置いていたエレン・ケイとは対照的である)。
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